The ultra lo-fi garage rock band [The Super Amateur]
「bockin'on4月号vol.16(2015)」
◎独占インタビュー「ザ どしろうと」
洗練を拒んだ素人たち『ザ どしろうと』デビュー!
インタビュー / 巣鴨陽一
既成ロックを攻撃するかのごとく90年代インディーズ・シーンを疾駆したポップロックバンドSoul Recovery Co.のリーダー安東和光が帰ってきた!先の見えない混沌としたシーンに希望の光を灯したとも言えるSRCの活動から7年、新たなプロジェクトを引っ提げて待望の復活を果たしたリーダー。さらに、音楽メディア初登場となるバン(番平吉郎)、オミ(橋本忠臣)、ゾノ(松薗達也)を加え結成された素人の素人による素人のためのバンドThe
Super Amateur(ザ どしろうと)。リーダーのマスコミ嫌いもあってかメディアへの露出も意外に少ない彼等に独占インタビューを敢行。結成から現在まで、洗練を拒んだ素人たちの情熱の源を探った。
◎楽器に触れたことがないなんてことは重要じゃない。
●「お帰りなさい」ですね。
リーダー(以下L)「ただいま」
●まずはリーダーに伺いますが、ブランクの間は何をしていたのですか?
L「うーん。いろいろありすぎて伝えにくいんだが、総じて言えば人助けかな(笑)」
●それは素晴らしい(笑)。どのような人助けをしていたのですか?
L「うん。まさに、その人助けのひとつが「ザ どしろうと」の結成へと繋がっていくわけなんだけど。まず、その頃は世の中に溢れている爆発物を安全な状態にするというか、場合によっては回収するような仕事をしていたんだけど、その時期に一緒に働いていた部下職員の献身的な働きに捧げようと「君もヒーロー」を作曲したんだ。それで、その曲がNHBC(Now Here Broadcasting Corporation)で放送予定のTVアニメのエンディング曲に採用されちゃって、その縁でアニメの制作に携わっていたバンと話すようになってさ。お互いの音楽的趣向が良く似ていて盛り上がっちゃって。ビートルズやストーンズなんてのは勿論当たり前の話で、ルー・リード、U2、ブラーとかね」
バン(以下B)「初めて他人とじっくりザザの話をした(笑)」
L「ライド、ブルートーンズなんかも。挙げたら切がないよ(笑)。で、2012年のある日ってわけさ。正確には忘れたけど、いつものようにビールを飲みながら音楽談義を交わしていた時にバンが言い出したんだよ。一度でいいから大音量で楽器を演奏してみたい、ジャーンって具合に。じゃあ、その夢を叶えようじゃないか、どうせなら同じような夢を抱いている奴を集めてさ、と話が進んで。丁度「君もヒーロー」を演奏するメンバーを探していたし、すべてがばっちりのタイミングだったんだよ」
●そこに、ゾノさん、オミさんが加わるわけですね。
L「そう。オミはバンが連れてきたんだよ。バンはギターが弾きたいのかと思いきや具体的に話を進めるうちに自分はベースがいいと言いだしたんで。まずはドラムを叩ける奴をってことでさ。あ、文字どおりの意味でとらないでくれよ。ドラムが叩けるではなくて、ドラムを叩かす奴ってことだよ。」
B「音楽オタクで相当にマニアック。一度はバンドってものをやってはみたいんだけど到底無理だとあきらめてて。だから楽器になんて触れたことがなくってさ。資格要件に合致するってことで(笑)」
オミ(以下O)「ひどい(笑)」
L「ゾノは~。ゾノはどうだったっけ?勝手に入ってきたんだっけ?(笑)」
B「知らぬ間にそこにいたって感じかな(笑)」
ゾノ(以下Z)「ひどい(笑)」
●ひどい(笑)。ところで、楽器になんて触れたことがないメンバーとバンドを結成することにリーダーとしては不安、あるいは結成後、不満はなかったのですか?
L「楽器に触れたことがないなんてことは重要じゃないよ。楽器を奏でる喜びを感じること、喜びを共有し合えることが大切なんじゃないかな?実際、初めてのスタジオ入りでは、らっきょが転がっただけで爆笑する女子高生みたいに大はしゃぎでさ。そんなメンバーを見て自分が初めてギターを鳴らした時の興奮を思い出すことができた。喜びを感じ共有し合えなきゃ高価な楽器を持っていようが、個人的にテクニックがあろうが、洗練されていようが意味がない。そんなものは後からどうにでもなるさ。まぁ、初スタジオの後は多少本当に上手くいくのかなとは心配にはなったけど(笑)。でも、音源を聴いて全然カッコ良いと思えたし、何より楽しんで演奏しているニュアンスが勢いとなってサウンドに出ていると感じたよ。バンドに一番大切なのは技量とか経験とか高価な楽器とかではなく、もっと別のものだよ」
◎自分の心の中に棲む卑怯者
●先にリリースされたシングル「卑怯者」について伺います。まず、なかなかユニークで強烈な歌詞ですが、これは世の特定のターゲットに向けて発信というか、糾弾されたものと捉えて良いのでしょうか?
L「うーん。特定の対象を歌ったものではないんだけど、ただ、個人的に特定の人達のことを考えているときにインスピレーションを得たのは確かだよね。卑怯者に対して、誰もが憤りや侮蔑、攻撃的な感情を持つわけで。でも、それだけをメッセージとしているわけではなくて、むしろ、自省的に、また、リスナーに向けて問いかけているということもあるよね。歌詞ほどではないにしても誰だって心の中に棲む卑怯者の存在を感じることってあるだろう?「卑怯者」は、そういう心の中の悪しき部分への気づきのための歌なんだ。リスナーにメッセージが伝わって、そういった局面を迎えたときに、どうか正しき道を選んでくれたらと思っているよ。勿論、サウンドを楽しんでもらいながらね。」
●なるほど。ところで、そのサウンド面の話なんですが。演奏に関しては、「ザ どしろうと」としてのコンセプトなんでしょうが、相当にお粗末(笑)と思わせつつも次第に散逸していた音が見る見るうちに塊となって聴き手を虜にするような印象を受けましたが。
L「そりゃお粗末だよ(笑)」
全「(笑)」
L「でも、そうなんだ。演奏力の無さという制限のある中で狙っていたとおりの仕上がりになっているのもそうだし。さっきも言ったと思うけど、初スタジオ以降、音源を聴いて全然カッコ良いと思えたし、編集の段階になって何より楽しんで演奏しているニュアンスが勢いとなってサウンドに現れていると感じた」
Z「うん。お粗末な演奏は自他共に認めるけどね(笑)。でも、散逸していた音が見る見るうちに塊となって聴き手を虜にするなんて、うれしいこと言ってくれるね」
●いえいえ、本当にそう感じたので。
O「いい耳してますね」
B「でも、かなり頑張ってここまできたっていう部分もあるよ。今は笑っているけど、ご存知のとおりリーダーって音作りには相当ストイックなんで、結構叱られたよなぁ?」
Z「マジで叱られた(笑)」
O「はい(笑)」
L「言葉丁寧にね(笑)」
全「(笑)」
●3曲目に収録されている「ちゅらかーぎー」との共演も圧巻ですね。
L「あれは楽しい企画だったな」
B「うん。良かった。最初に話が来たときは躊躇したけど。だって(歌謡フェス)って。(ザ どしろうと)ってジャンル分けすると(歌謡)なのか?って思ってさ(笑)。でも、本当に楽しかった。美人(ちゅらさん)に囲まれてさ」
Z「素晴らしい体験だったよ。ちょっと言葉にできそうもないな。うん」
O「違う体験もしたかったな(冷笑)」
◎君もヒーロー
●最後に、ファーストシングルとして予定していた「君もヒーロー」について伺います。先行しての「卑怯者」のリリースとなったわけですが、これは意図的なものなのでしょうか?
B「全然。ジャケットに使おうとしていたキャラクターは、もともとTVアニメ用に僕が描いたんだけど、TV局側とSRCレコード側が版権問題だとか何だとか言ってモメてね。未だにモメてるんだ。だからリリースの見通しも立っていない。でも、版権って何なんだろうね。描いているのはこの僕なのにね」
●でも、リーダーご自身はSRCの代表取締役というお立場でしょう?
L「そりゃそうなんだけど、上になればなるほど細かいとこまで口を出せないんだよ。いろいろあってさ」
O「僕の体調不良もありまして・・・すいません」
●リスナー待望の「君もヒーロー」。既にTVアニメで流れているバージョンやHPで提供なさっているスタジオ音源を聴いて、抑えの利いたメロディーの中に力強さと決意を感じたのですが。
L「そのとおり。「君もヒーロー」は、市井の人々に対する応援ソングであると同時に自分たちの決意表明でもあってね。音楽に限らず、やってはみたいんだけど最初から無理だと、年齢のせいにしたり才能がないからとか、あきらめてることって誰にでもじゃない?僕にだってあるし。億劫になって扉を開けれないっていうのかな。そういうのに対して夢をあきらめるな、チャレンジすることから逃げ出すなっていう歌さ。そう、力強い歌だよ。」
マスコミ嫌いとの噂から「今日は話を聞くのに苦労するかも...」という先入観が頭の中を巡っていたものの、リーダーをはじめメンバー全員が終始笑顔で応じてくれた独占インタビュー。現時点でファーストアルバムのリリース情報等は入っていないが、シングル「卑怯者」の無料配信リリース、版権問題等、話題に事欠かない彼等の今後に目が離せない。